住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法が6月9日に成立しました。日経アーキテクチュア6月22日号では、それを1つのタイミングとして、特集「大競争時代の宿泊デザイン」を掲載しています。新タイプの宿泊施設のトレンドを分析しました。

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 サブタイトルは「民泊を超える“体験”がカギ」──。筆者は、このサブタイトルを読んで、「なるほど!」と腑(ふ)に落ちた感じがしました。

 何が腑に落ちたのかというと、「民泊が伸びている理由」についてです。

 今回の特集は、民泊自体を深掘りするものではありませんが、取材した事業者や設計者の多くが、「民泊を意識して体験型の施設を計画した」と語っています。筆者はこれまで、「利用者にとっての民泊のメリット」=「宿泊費の安さ」であると単純に考えていました。ですが、どうやら宿泊事業のプロたちは、民泊の本質は「体験」にあると見ているようです。

 そう考えると、自分にも思い当たる経験がありました。

 10年ほど前の夏、家族で沖縄の宮古島に旅行に行ったときのこと。帰京の日に台風が直撃し、急きょ延泊せざるを得ない状況になりました。ホテルに電話をかけまくるも、空室はなく、ようやく小さな民宿に空きを見つけて、そこに泊まることになりました。

 スーツケースを抱えてその民宿を訪ねてみると、民宿というよりも、ほとんど“普通の家”でした。

 既に日は暮れており、オーナー家族と一緒に食卓に付くと、東京では見たことのないような熱帯の魚が食卓に並びました。食事後は、うっそうとした森に面した小さな風呂に、1人ずつ順番に入りました。

 その旅では前日まで、大手旅行代理店で予約したリゾートホテルに連泊していたので、当時、小学生だった娘はその状況に目を白黒させていました。

 ただ、それが苦い体験だったかというとそんなことはなく、今でも家族の間ではその1泊の話がよく話題に上ります。逆に、大きなリゾートホテルで何を食べたのか、どんな浴室だったのかは全く思い出せません。

 なるほど、民泊の本質は体験か、と思ったのは、そんな個人的経験が特集のサブタイトル「民泊を超える“体験”がカギ」と重なったからです。

 余談が長くなりました。今回の特集はこんな構成です。

Part1 Airbnbが挑む地域再生 “黒船”が示す民泊の未来 Part2 宿泊デザインの新潮流 ディープな日本体験で差別化
Part3 宿泊施設の開発動向 訪日客の「コト消費」を狙え

 特集を読んで分かったのは、「体験」を重視するということは、決してハードの優先順位が下がるという意味ではないということです。むしろ逆で、旅における「ハードを含めた『宿泊』の優先順位が上がる」ことなのだと感じました。アイデアの幅を広げたい設計者、事業者の方は、ぜひ本特集をご覧ください。