J.フロントリテイリングの代表執行役社長である山本良一氏は2017年7月20日、インバウンド市場の総合展示会「インバウンド・ジャパン2017」(主催:日経BP社)で講演し、訪日外国人旅行者に対する同社の取り組みを語った。

J.フロントリテイリングの山本良一代表執行役社長(写真:清野 泰弘)
J.フロントリテイリングの山本良一代表執行役社長(写真:清野 泰弘)
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 同社は、百貨店の「大丸」と「松坂屋」を運営する大丸松坂屋百貨店を傘下に持つ持ち株会社。山本氏は、訪日外国人旅行者が1000万人を超え、全国の百貨店の免税売り上げが過去最高の1940億円を超えた2015年ごろまでを、日本のインバウンドの「第1フェーズ」とし、現在は「第2フェーズ」に移行しつつあると説明した。

 第1フェーズの特徴が団体旅行、モノ志向(観光先で大量の商品を購入)だったのに対し、第2フェーズは個人旅行、コト(体験)志向が特徴だという。「人気アニメの催しをすれば、海外から大量に観光客が訪れ、その催事限定の商品が飛ぶように売れていく。目当てのイベントを中心に旅行を組み立てる観光客も多いようだ」(山本氏)

 免税売り上げの構成比を見ても、訪日外国人旅行者のコト志向は鮮明だ。大丸松坂屋百貨店では、2015年には高価なブランド品や時計が免税売り上げの30%ほどを占めていたが、2017年には20%程度に落ち着き、代わって化粧品の構成比率が19%から45%へと急伸した。「一人ひとりに合わせたメーキャップのアドバイスなど、時間を掛けた接客で人気に火が付いた。体験消費ニーズが増しているのが分かる」(同氏)

 こうした傾向を踏まえて同社は、個人旅行の計画に大きな影響力を持つSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を意識したインバウンド促進策を打ち出している。例えば、自社の百貨店が旅行で訪ねるスポットに選ばれるよう、中国など向けに動画配信を行っている。内容は、中国で人気の美容研究家などが出演し、メーキャップに関するトークを展開したり、動画視聴者からの質問にリアルタイムで答えたりするもの。「企業の押し付け感を抑えた」動画は好評で、再生回数が277万回超、コメント数は600件超にも上った。

 このほか、外国人ブロガーや留学生をグループの店舗やイベントに招待してSNSによる口コミ拡散を狙ったり、訪日観光客のうち富裕層に向けて、免税手続きの優先や店内アテンドといった特別なサービスが受けられるカードを発行し、固定客化につなげたりしている。

 さらに、中国で人気の旅行口コミサイトへの書き込みを和訳し、各店舗で共有する取り組みも開始した。「例えば、単純に中国語が話せないスタッフのイメージが悪いかといえばそうではなく、言葉は通じなくてもジェスチャーを使った交流と笑顔が喜ばれていたり、言葉が通じないためにこわばった表情をしている店員の姿は冷淡と受け取られたりする」(同氏)。リアルな訪日外国人の感覚を知ることで、喜ばれるサービスを目指している。

 今後、政府が掲げる“訪日4000万人時代”に向けては「訪日外国人旅行者が増えているというよりも、商圏そのものが拡大していると捉えるのが適当。訪日客という特別な枠で考えるのではなく、日本の顧客と同じように、最新のトレンドを踏まえて付加価値のあるモノ、サービス、体験を最適な環境で提供することが重要だ」との考えを示した。

 この考えに沿う取り組みとして、2017年4月に開業した複合商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」(東京都中央区)と、2019年に建て替え工事が完了する予定の「大丸心斎橋店本館」(大阪市)を紹介。山本氏はギンザシックスについて、総店舗数241のうち約半数が各企業やブランドの旗艦店であることを示し、「ブランドの総力を上げた品ぞろえ、環境で買い物をすることは特別な体験になる」とアピールした。

 ギンザシックスでは、インバウンド消費である免税売り上げが全売上高の約2割、化粧品に限れば約3割を占めている。ある日本の代表的な化粧品ブランドでは8割を超えているという。「インバウンドを特にターゲットにするのではなく、日本人にも外国人にも満足してもらえる施設を目指した結果、これまで以上の支持につながった」(同氏)。

J.フロントリテイリングの山本良一代表執行役社長の講演の様子(写真:清野 泰弘)
J.フロントリテイリングの山本良一代表執行役社長の講演の様子(写真:清野 泰弘)
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