2017年5月25日号の特集は「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」がテーマです。タイトルは「正しいBIMとの付き合い方 AIも視野にデータ活用の新フェーズへ」。国内外の設計事務所や建設会社のBIM活用の実態を取材しました。

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 特に、英国・ロンドンで取材した3つの設計事務所のBIM活用実態「BIMマネジャーに強い権限」は、ほかでは得ることのできない情報といえるでしょう。3つの設計事務所とは、ザハ・ハディド・アーキテクツ、ロジャース・スターク・ハーバー・パートナーズ、アラップです。今回の特集に「海外取材」を入れようと思ったのは、BIMの導入が進んでいるといわれる英国と日本とを比較することで、日本のBIM活用のレベルや課題を相対的に見たいと思ったからです。

 今や日本でも、BIMという言葉を全く耳にしたことがない、という建築実務者はほとんどいないでしょう。本誌でもこれまで何度かBIMに関する特集を組んできました。

 日経アーキテクチュアで初めてBIMについて取り上げたのはいつだったのかを調べてみると、最初にBIMという言葉が登場したのは、今から約10年前、2008年3月10日号の特集「デジタル操るアナログ力」でした。4つの章から成るこの特集の最後の章のタイトルが「BIM──デジタルの整合性が実務作業を軽減」でした。

日経アーキテクチュアで初めてBIMについて取り上げた2008年3月10日号特集「デジタル操るアナログ力」の一部
日経アーキテクチュアで初めてBIMについて取り上げた2008年3月10日号特集「デジタル操るアナログ力」の一部

 改めてこの記事を読んでみると、2008年の段階で既に、BIM導入によって「業務の前倒しが質の向上やコストダウンを可能にする」と書かれていることに少し驚きました。今でも全く同じことが言えそうです。

2008年3月10日号の特集に掲載されていたBIM導入のメリットのイメージ図
2008年3月10日号の特集に掲載されていたBIM導入のメリットのイメージ図
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 当時からBIM導入のメリットは明白だったのに、日本ではなぜなかなかそれが進まなかったのか。その辺りは今回の特集を読んでいただきたいところですが、ざっくり言うと、「大きなメリットは同じだけれども、使う人の立場によって活用したいデータや入力方法が異なる」ということがネックだったようです。

 そこで今回の特集は、「立場によって違う」ということを前提として、国内動向は建設会社編「大手は独自プロセス構築へ」と設計事務所編「竣工後にらみ活用法にメド」に分けて、先駆的な取り組みを紹介しました。

 今回、英国と日本を取材して、「日本のBIM活用は決して遅れてはいない」ということが分かりました。先進的な組織だけを取材しているので全体のレベルは比較できませんが、部分的には日本のほうが進んでいる領域も少なくないようです。

 個人的に印象に残ったのは、“BIMの最先端”というイメージのあったザハ・ハディド・アーキテクツの担当者のこのコメントです。

 「BIMによって建築のデザインが変わったということはない──」(ザハ・ハディド・アーキテクツのBIM導入を推し進めたシニア・アソシエートのパオロ・ジリー氏)。同社がBIMに求めているのは、あくまで「設計業務の効率化」でした。

 予想と異なる冷めたコメントに、かえってリアリティーを感じました。それに対して日本では、AI(人工知能)もからめて、施工や設計の新たな可能性を探る取り組みが熱を帯びています。そうした取り組みが日本の建築技術を進化させることを期待する一方で、これからBIM導入を検討しようという初級者にとっては、むしろ英国の事例のほうが参考になるのではないかと思えました。

 いずれにしても、「建築設計でBIMは当然」という時代はすぐ目の前まで来ているようです。既に利用されている方も、これからの方も、自分にとってのBIMとの「正しい付き合い方」を本特集で見つけてください。